山の雪解け水が育てる三陸のわかめ
三陸の春は遅い。遠くの山の雪が解け、少しづつその水は川から海へ流れてきます。その雪解け水が冬の海に栄養を与え豊かにしていきます。湾内に育つわかめも牡蠣もホタテもその恩恵にいあずかるのです。
三陸はわかめの最大の産地です。本格的な漁は3月後半から4月まで行われますが、その前に若いわかめを間引きするわかめ漁を早採りわかめ漁と言います。ロープにずしりと吊り下がる茶色のわかめを数本の間をあけながら、一本づつ刈り取ります。その若さゆえに日持ちせず、かつては浜の漁師の間でしゃぶしゃぶにして食されていました。現在は、生わかめとして出回るようになりました。
【ワカメ】
■主な産地/三陸
■水揚げ最盛期/1~2月
■生態と特徴
コンブ目チガイソ科ワカメ属の海藻。海苔と同様に古くから日本人に親しまれ、「万葉集」にも登場しているほど。古くは藻類の「も」に対し、食用の海藻一般を「め」と呼んでいたことから、「ワカメ」の名は「若い+め」に由来しているとされます。ただし、古代は海藻類全般を指していた可能性もあり、現在の品種を指すようになったのは中世以降という説もあります。
大型褐藻の仲間で、日本沿岸に広く分布。生物学的には「ナンブワカメ」と「ワカメ」の品種に分類され、芽生えの時期は秋です。冬から春にかけて成長し、中には全長5mを超えるものも。そのほとんどの部分が食用になり、葉とメカブが代表的な食用部分です。
三陸はナンブワカメの産地。ナンブワカメは、食用わかめの有料形質とされる肉厚で深い切れ込みがあり、光沢と弾力のある葉を持った品種です。その生育に適した環境がそろっている三陸のワカメは世界一の品質を誇り、特に肉厚でシャキシャキとした食感が特徴といわれます。主に3~4月に収穫されますが、最近では1~2月に収穫される若いものが「早採りワカメ」として人気を博しています。
岩手県の養殖わかめの産地は、北端の広野町から南端の広田湾まで広い範囲に渡っています。特に、宮古市田老(真崎わかめで有名)では、天然ワカメだけを母藻として採苗しているのが特徴です。
旬のものは生で流通する場合もありますが、主に葉の部分を塩漬けしたり、乾燥させたりして保存性を高め、商品化しています。料理に使う際は、水に漬けて塩抜きするか、戻してから用います。また、メカブは湯通ししてそのまま食すか、乾燥させたものを細く切って流通することが多いようです。市販のワカメは緑色ですが、生きている状態では褐色で、湯通しすることで緑色に変化します。食物繊維やアルギン酸などの栄養素を多く含むほか、体内の代謝を促進するヨウ素が含まれ、油とともに摂取すると吸収率が上がります。
■ワカメはみそ汁やスープなど、汁物の具として多用され、他には酢のものやサラダ、炒め物などにも用いられます。旨み成分を多く含み、低カロリーであることから、ダイエット食品にも適しています。
三陸の黒いダイヤは 小粒でも深い味わい
アワビと言えば、旬は夏と思いきや三陸のエゾアワビエゾの旬は冬です。
三陸では、ウニと同様に、開口日(かいこうび)と呼ばれる漁が解禁される日が、決められており11月からの冬の期間までの6回~8回程度と限られています。また、海の状況が悪いとせっかくの開口でも水揚げできません。漁師は箱めがねで海底をのぞき込んで、アワビカギという数メートルの竹の棒で海底の岩についているアワビを一つひとつ海底からはがして、すくいあげるように取っていきます
クロアワビに比べると小粒ですが、何と言っても昆布と若布が主食のエゾアワビは磯の香りと濃厚なコクがあります。
■主な産地
北三陸
■水揚げ最盛期
11~12月
■生態と特徴
アワビはミミガイ科の大型の巻貝の総称で、大型の種の名前がアワビ、小型の種の名前がトコブシといいます。殻の内側全体から層が付加されて厚くなってゆき、成長した殻は皿状で、長径が5~20cm、短径が3cm~17cm程度。日本では北海道南部から九州沿岸の干潮帯付近から水深20m程の岩礁に生息します。
アワビの殻の背面には数個の穴が並んでいて、これは吸いこんだ水や排泄物、卵や精子を放出するためのもの。日本産については殻に空いた孔の数で区別し、4~5個のものをアワビ、6~9個のものをトコブシとしています。
世界中で100種余りのアワビが知られていますが、日本沿岸に分布するのは9種ほどです。食用にされるものは「メガイアワビ」「クロアワビ」「マダカアワビ」「トコブシ」の4種で、三陸沖で揚がるものは「エゾアワビ」と呼ばれる小振りの品種。これは「クロアワビ」の北方型にあたります。産卵期は夏から秋で、産卵された卵はその後浮遊幼生となり3~4日間浮遊生活をしてから海底に沈着します。沈着した稚アワビは、1cm位までは岩に付着している水ゴケ(けい藻)を食べて大きくなりますが、その後は昆布やワカメなどの海藻類を食べるようになります。漁獲される9cm以上のアワビに生長するまでには5年もかかるため、禁漁期間や漁獲する大きさの制限、あるいはコンクリートブロックの投入などによる漁場づくりをして、増殖をはかっています。
昆布やワカメをたっぷりと食べて育ったアワビは、肉厚で旨味があり、他の品種より高値で取引されています。アワビは高級食材で、生で食すとコリコリとした歯ざわりが特徴。寿司ネタとしてもポピュラーで、身だけでなく肝を珍味として食べる地方も多くあります。
■刺身や寿司ネタ、活アワビとして提供されるほか、水貝、酒蒸し、ステーキ、吸い物などに調理されます。とろりとしたアワビの肝(=としろ)は貴重な珍味で、レモン汁をかけるなどして食されるほか、塩辛や塩漬けなどにも加工されます。
三陸の夏はウニ漁とともにやってくる
ウニ漁は、漁業協同組合の生産部長が浜に出かけ、潮や天候を見て翌朝行うかを判断します。
今日はウニ漁を行うことになったようです。日の出を背に笛が鳴ります。
一斉に、ウニ漁が始まります。いそ舟と呼ばれる小舟に2人でのり、箱眼鏡を口とあごで押さえながら、海底をのぞき海の底に静かな波とともにゆらりゆらりと揺れるウニの姿を目をこらして追います。わかめやこんぶの間に身を潜める海中の黒い太陽のようなウニに、漁具を差し込んでいきます。漁具は地域によって異なりますが、「たも」と呼ばれるかごや、「カニ」と呼ばれるひっかけです。どの漁師も一切口をきかずにいち早くいち早くウニを取らんと舟を操ります。終了の笛が鳴り、今日の漁はおしまいに。ウニとの戦いは4時間ほど。舟に積まれたかごには、黒いウニの山。その日の勝者が浜にあがると明らかになります。
ウニ漁が終わるとすぐに浜にあげ、家族で殻むき作業に入ります。ウニの卵巣は5つに分かれています。3対2に分かれるようにウニの底にある口にウニ専用の小刀を差し込み殻を割ります。これには長年の勘が必要です。殻を割ったら中身を素早くチェックし、サイズ別に分けて行きます。腸管や黒い内蔵を取り出した後、殺菌した海水で良く洗い金属のヘラで身を取り出します。そして、生食用の清浄海水入りのびんやタッパーにいれて完成です。
子供の頃から自分の浜のウニを食べている漁師は、誇らしげにこう言います。
「うまいウニは、うまいこんぶとわかめが育てるのさ」と。
■主な産地/三陸沿岸
■収穫時期/6月から8月(お盆前)
■生態と特徴
ウニとは棘皮動物門ウニ綱に属する生き物の総称で、食用といなるのは主にホンウニ亜目の「ムラサキウニ」や「バフンウニ」、「キタムラサキウニ」、「エゾバフンウニ」などです。こうしたウニはやや扁平な丸い形をした硬い甲羅に棘が沢山付いています。三陸で穫れるウニはほとんどがキタムラサキウニです。身がやや白いことから「白ウニ」と言われます。全体の9割を占め、残り1割がエゾバフンウニです(色が赤いことから赤ウニと言われます)。
ウニは日本各地の沿岸で獲れ、北海道だけでも一年を通してどこかで漁が行われ水揚げがあり、通年市場に出回っています。ウニは産卵期を控えた頃が最も実入りがよく美味しくなるのですが、産卵期は海域や種類によっても多少違いがあるものの、おおむね8月中頃から10月にかけてとされています。(釧路地方は冬)生きたウニは漢字で表すと「海胆」または「海栗」となります。「海胆」は海で獲れるウニの中のオレンジ色をした「肝」を食べると言う意味ではないかと思われます。また、「海栗」は外見が毬栗(いがぐり)の様に見えるからでしょう。このウニを塩漬けにされた雲丹は日本の三大珍味の一つとして知られています。産卵期は夏から秋で、産卵された卵はその後幼生となり30日間浮遊生活を送り海底に沈着します。沈着した稚ウニからコンブやわかめ、アオサなどの海草類を食べて育ちます。漁獲される5㎝以上のウニになるには3年かかります。それゆえにウニを増やすために漁の日や時間を定め、適正漁獲を行っています。
ウニは、殻を割り、殺菌処理をした清浄海水で内蔵を洗い流し、スプーン状の器具で丁寧に身を取り出し、内蔵をさっとあらいながし、生食用の清浄海水入りのびんやタッパーにいれて販売します。北三陸では牛乳瓶が多く南三陸ではタッパーが主流のようです。
■食べ方
生食のほか、塩ウニにしたりアワビの貝殻にのせて焼きウニ(実は蒸しウニ)に加工します。三陸ならではのウニの食べ方に「いちご煮」があります。結婚式などのハレの席に欠かせない吸い物で、鮮やかなウニの身を湯に入れると花が咲くようにふわっと広がり、野いちごのように丸くなることからこの名がつけられたとも言われています。