女性の視点に立った女性が働きやすい水産加工場プロジェクトの始まり
■ 水産加工場には女性の力が不可欠
2012年に沿岸広域振興局水産部の方とともに、県の北位は久慈から南は陸前高田までの10カ所ほどの水産加工場を見せていただく機会がありました。いわての水産加工場で従事は、女性の割合がとても多いと感じました。8割くらいが女性ではないかと思いました。私は、本業である企画開発という仕事柄、食品に関わることが多いので工場見学を時折させてもらっていますが、そして三陸の水産加工場は、大規模な機械的な工場と異なり、とても細かな工程で、ていねいな仕事していて、熟練の技が必要なのだと感じました。
■水産加工場の不人気
水産加工業は女性の力が本当に大切なのだと実感しました。昔からお父さんは海に漁に行き、お母さんは浜で加工するという家族で水産を支えるという歴史があるからだと思いますが、今後は、働く女性達がもっともっと活躍できるような水産加工場にしなければ、これからの人口減少、過疎化に対応できないのではないかと思いました。
おそらく雇用にお困りの水産加工場の経営者も多いのではないかと思います。平成26年岩手県労働局発表では、水産加工の職業を含む食料品製造の職業については、沿岸部の有効求人倍率2.57、約3倍となっています。まだまだ求職者が不足しているという実態です。
加工場をまわっている時に、悲しいお話を聞く事がありました。水産加工場に働く人は、パチンコ台の最後の玉の出口にはいるようなものだという話や、若い女性が応募してきてくれたのに、母親が水産加工場に勤めさせるために育てたのではないといって連れ戻してしまったという話を伺い、少しでも水産加工場を女性にとって楽しい職場にしてあげないといけないと強く思いました。
■まだまだ活用されていない女性の力
平成26年の男女参画会議の調査を見ると岩手県の第一次産業に携わる女性は1割くらいです。日本全国での水産加工場の女性従事者は64%。岩手県はもっと多いのではないでしょうか。しかし、そのうち組合や漁協などの団体の女性役員は0、2%と皆無に近い数値です。実は女性が基幹的に参画している経営体は、経営の多角化に取り組む傾向が強く、販売額が大きいという傾向があると指摘されています。女性の本来持っているポテンシャルをもっともっと活用することが、女性の活躍の場を拡げ、女性の働きやすい水産加工場の実現にも役に立ち、今後の経営発展の鍵になるかもしれせん。
岩手県を代表する食料品、水産食料品。
しかし、沿岸部の有効求人倍率は3倍!まだまだ人手不足です。
女性の力をもっと活用しましょう!岩手の女性は働き者です。もっともっと、活躍の場を!
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女性は大切な労働力水産加工の従事者の大半は女性!
岩手県の人口は減少傾向にあり、企業にとって雇用の確保は重要な課題です。そのなかで、産業の中心となる水産業は、女性たちの働きによって支えられていると言ってよいでしょう。
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水産加工場は女性の職場水産加工は熟練した手仕事が必要!
細かな手仕事が多い水産加工に、女性の力は欠かせません。水産加工場が女性にとって働きやすく魅力のある職場になれば、人気も高まり、雇用も安定するでしょう。
水産加工場で働く女性たちのホンネを聞きました。
■鮮魚加工、水産加工品、わかめ加工などの水産加工場でインタビュー
水産加工場は、冷凍や鮮魚を扱ううえで寒く冷たい作業環境です。立ち仕事や同じ姿勢を続ける作業も多く、年齢の高い方も多くいらっしゃいます。彼女たちが今、どんなことを考え感じているかを知りたいと思いました。現状を把握するために、2013年から2014年にかけて、水産加工場に勤める女性たちにインタビューをしてみました。以下、こんな結果がでました。
- 〈Q1〉仕事で大変なこと、困っている事は何ですか?
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- ● 姿勢や体勢が辛い。
- ● 寒い、冷える。
- 〈Q2〉仕事をする上で楽しいことはありますか?
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- ● 休憩時間が楽しい。
- ● おしゃべりが楽しい。
- 〈Q3〉仕事にやりがいややる気を出すためにどんなことを望みますか?
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- ● 新年会や慰労会や社員旅行。
- ● 昇給。
- ● 休暇。
- ● 仕事を任せてもらったり認めらること。
- 〈Q4〉作業環境の状況や改善点を教えてください。
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- ● 作業台の高さ調整が自由になるといい。
- ● 立ち仕事は苦にならないが腰を曲げるのが辛い。
- ● 作業台がステンレスなので冬場はとても冷える。
- ● コンクリートなので足下が冷える。長靴の中に中敷きを入れたり、靴下を重ねてはいたり、綿入りのズボンをはいて工夫している。
- ● ずっと同じ姿勢なので、体を動かさないと寒い。
- ● 壁の色が白なので、暖色やわかめなどの絵が描かれていたら楽しい。
- ● 壁がすぐ汚れるので、掃除が大変。汚れが落ちやすい壁にしてほしい。
- 〈Q5〉休憩室や食堂で改善してほしいところはありますか?
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- ● 仮眠スペースがほしい。少しでも寝ると全然違う。畳敷きでも良い。今は木の長椅子で寝ている。ロッカー室で寝るのは寒い。
- ● マッサージチェアがあったらいい。
- ● 床暖房があったらいい。お風呂もあったらいい。
- 〈Q6〉トイレや更衣室で改善してほしいところはありますか?
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- ● トイレは別々がいい。
- ● トイレの数が足りない。一斉に休憩時間に入るので、並んで待つ時間がもったいない。
- ● トイレの便座は温かいものがいい。
- ● 顔に塩がつくので、化粧台があったらいい。
- ● ロッカーは、上下ではなく一連にしてほしい。休憩も退社も一斉なので上下だと遠慮して使いづらい。時間がもったいない。
- 〈Q7〉作業着や長靴について改善してほしいところはありますか?
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- ● 作業着は伸縮性のあるものがいい
- ● おしゃれ感があったほうがいい
- ● 作業着が白なのは仕方が無いが、魚の血が目立つのが嫌だ
- ● 今の作業着のデザインが動きにくく人気がない。
- ● エプロンはひもで肩が凝る。
- ● 作業着は1着目は支給だが、替えは個々に購入。お金がかかる。
- ● 長靴は白しかないのか。もっと可愛いくてもいいのに。
- ● 長靴はつめたいが、カイロや中敷きで調整しているが、重たくなる。
- ● 防寒用のボアのついた長靴はあまり暖かくないし蒸れる。
- 〈Q8〉娘さんが同じ仕事をつくことを賛成しますか?反対しますか?
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- ● 反対の意見多数。(意見の内容)・通勤が自転車だと帰り道が心配。
・寒いし、体は冷えるし、辛いのでかわいそう。
・それにもまして、給料や楽しみがあればいいかもしれない。
・おはよう、じゃあねと帰るだけ。あまりコミュニケーションがない。
・事務所にはタイムカードを押すにいくだけ。そこでも交流がない。 - ● 賛成少数。(意見の内容)・アドバイスをするならば、「人間関係」「仕事に集中すること」「時間厳守」
・「失敗しても良いから、わからないことは人に聞いて進める」という。
・先輩として応援する。
- ● 反対の意見多数。(意見の内容)・通勤が自転車だと帰り道が心配。
■ インタビューを終えて
鮮魚卸、総合加工場、海藻専門加工場、それぞれの仕事の種類は異なっていても、総じて女性たちはプロ意識も高く、勤勉で熱心な方が多く見受けられました。震災後も継続して働いている人たちがほとんどで、その背景には就職先が豊富でないという理由もあるかもしれませんが、長年慣れ親しんだ仕事や地元への愛着の方が勝っていると感じました。
- ●水産加工場で働く女性たちの特徴
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- 1.勤勉。プロ意識が高い。
- 2.勤続年数が長く熟練者が多い。
- 3.地元愛が強い。
現状のホンネを三つにわけて改善策を考えてみます
■環境の改善
健康維持の大切な問題として、どの加工場でも一番にあがる「冷え」の改善です。
作業環境の温度は水産物の特性からして変えることができないとしても、工夫はできると考えられます。まず、「冷え」は足からくることが多いため、長靴の改善の声も多くあがりました。座っていると寒く、動くと蒸れてくるため、防水加工で尚かつ通気性と保温性を兼ね備える作業用長靴の要求がありましたが、そのような機能をそなえたものは見当たらないのが現状です。長靴製造者によると「靴底の暑い長靴を作ることは可能だが高値になる。それでもニーズがあるなら生産は出来る」とのことです。足の冷え対策として、「岩手県推奨作業靴」を国や県の支援のもと、女性従事者に配布したり、休憩時に足を温めるために床暖房をしたり、足湯などを設置したりすると喜ばれると感じました。
また、「冷え」からくる肩こり、腰痛などのケアとしては、体操、ストレッチなどの推奨を行う、体操ビデオを流したりスレッチの方法を書いたポスターを貼ったりとケアの方法は色々と考えられます。
また、腰痛のもう一つの原因は、作業姿勢と合わない机や椅子が挙がりました。作業効率の面からも改善した方が良いと思われます。
後は清潔な男女別のトイレや休憩室での仮眠ができる畳の部屋などがあります。
■モチベーションの改善
全体的に仕事へのモチベーションづくりが希薄ではないかという印象を受けました。モチベーションをあげるためには、考課測定による昇給制の仕組みが必要だと思います。また、優れた技能をもつ人たちには、マイスター制度などの設定があると良いのではないでしょうか。そして適正を見極めた仕事の選択の自由なども与え、加工作業だけでなく商品開発、事務職へと進む事ができる制度があれば、それが各人の目標となり、日々のモチベーションにも通じるのではないでしょうか。
そして、モチベーションをあげる女性特有なこととして、作業着の改善があります。動きやすくて可愛い作業着がほしいと答える女性は年齢問わずいました。
また、自社の商品に関心がない、知識がないという人もいました。会社を誇りに思ってもらうことも大切なモチベーションです。その方法としては加工場に小さな売店または展示場を設置するのも良いかと思います。またそれが直接販売につながっても面白いと思います。そうすれば、商品知識をショップで披露でき、ショップで直接お客様に商品の説明や販売をする中で、自分たちの仕事に誇りを持つことができます。
人事考課の設定で昇給制度につなげる
技術の向上のためのマイスター制度の設置
可愛らしく機能的な作業着の支給
自社商品の展示。自社の商品知識の向上
■コミュニケーションの改善
加工場には、朝来て、夕方帰るだけ、休憩時間にしか話すことはなく、コミュニケーションが不足していると感じる方が多いようです。コミュニケーションは仕事を継続する大きな要素です。家族的なコミュニケーションこそ三陸の加工場の特色として打ち出したいものです。その方法をあげてみます。
- 1.いろいろな部署の人たちと話す時間をつくり、商品知識や販売状況などを共有することで、女性たちも仕事への意欲がわきます。
- 2.年に一度の社員旅行
温泉などへの一泊旅行は、家と職場の往復で煮詰まった気分を解消してくれます。同僚や上司との距離が縮まるきっかけにもなります。 - 3.休憩室は癒しの空間
暖かく、フリードリンクやお菓子がある休憩室で、おしゃべりしながら気分転換できると、疲れも飛んでケガ予防にもつながります。
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●冷え改善
休憩室を床暖房などで暖かくすると、気持ちも安らぎます。ストレッチや体操を推奨して、固まった体をほぐすのも効果的です。また、寒さを防ぎムレのない作業長靴の開発も必要なようです。
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●体や作業にあった椅子
作業に合わせて自由に高さを変えられる椅子の導入で、腰痛を予防。楽な姿勢で働けるので、作業効率もアップします。
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●安心・安全の保育室
加工場に保育室があれば、子連れで通勤できます。家が遠くても子どもに目が届くので、若いママも安心して働けます。
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●清潔で明るいトイレ
男女に分かれ、暖かくきれいなトイレは、デリケートな女性も安心できます。身繕いできる化粧コーナーもあると笑顔が増えます。
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●能力の評価
優れた技能を持った人には〈マイスター〉の称号を与えたり、昇級制を設けることで、全体の技能と士気が上がります。
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●商品知識をショップで披露
自分の仕事にもっと誇りをもってもらうために、自分たちがつくった自慢の商品を買えたり販売できるショップやカフェが加工場に併設されるようになったら本当に楽しい加工場になると思います。
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●働きやすい作業着
腕や腰回りの動きをスムーズにする素材や女性らしいデザインなど働きやすくかわいらしい作業着もモチベーションをあげます。
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●もっと会話を
いろいろな部署の人たちと話す時間をつくり、商品知識や販売状況などを共有することで、女性たちも仕事への意欲がわきます。
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●年に一度の社員旅行
温泉などへの一泊旅行は、家と職場の往復で煮詰まった気分を解消してくれます。同僚や上司との距離が縮まるきっかけにもなります。 。
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●休憩室は癒しの空間
暖かく、フリードリンクやお菓子がある休憩室で、おしゃべりしながら気分転換できると、疲れも飛んでケガ予防にもつながります。
■ まとめ
今後の水産加工場は、まちづくりと共に考えていく必要があります。若者がまちに戻ってくるためには、女性が元気で美しいまちである必要があります。女性が活気あるまちをつくる大きな鍵を握っていると思います。
女性は強く、働き者です。そして消費をするのも女性です。女性のモチベーションをあげて、女性に活躍してもらうために何をしたらいいのかを考えましょう。
ここで一般的な女性のモチベーションをあげるためことは何かといえば話す事
つまりおしゃべりをすることで気持ちが楽しくなったり、整理されたりするのです。男性にはわかりづらいかもしれませんが、これが女性特有の心理なのです。ですから良く聞いてあげるといいのだと思います。
女性の心理をよく考え、女性が活躍できる水産加工場にすることは、三陸の未来を元気にすることと考えます。
次につながる提案〈加工場で働く女性のネットワークづくり〉
今回、女性従事者の聞き取り調査を終えて、参加者の女性から「自分の思っていることを話せて良かった」、「仲間の考えていることを聞くことが出来て良かった」、「このように気軽に意見交換できる場がもっとあったらいいな」との声が多く挙がりました。
毎日のルーティンワークをただこなしていくというよりも、そこに女性らしいやりがいや楽しく働く場を皆さまが求めているように感じました。
そこで、『三陸沿岸で働く女性のネットワーク』をつくり、横のつながり、交流を広げる場をつくっていく必要も考えられます。
例えば、仕事と子育てを両立したい、キャリアアップを目指したい、など心の内で思っていることを世代を超えて女性同士が集まり情報交換、交流できる場です。
同じ環境で働く者同士、共感し分かり合える不平不満もあると思いますが、あくまで「女性のための思いやりのある職場づくり」「より生き生き楽しく働ける職場づくり」のために提案し合う場にすることが目的です。
スタイルとしては、実際に会って話し合う場として、外部講師の話を聞いたり、参加者同士が議論したり、ワークショップを行う一方でインターネット上で交わる場として、ホームページやブログ、Twitter、FacebookなどのソーシャルネットワークでPRすることも可能になれば、若い方の興味関心も生まれるでしょう。例会運営は、各月の担当のリーダーを決めて、企画立案から実施まで皆で共に開催するようにすると、より繋がりは深いものになっていくでしょう。
水産加工場の事業主の意識改革を提案していくとともに、次のステップでは、働く女性のネットワークをつくり、その一人ひとりに光を当て、女性の潜在能力をもっと高めることで、女性たちの活躍の場をさらに広げることに繋がるでしょう。